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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1225号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人山本武雄の上告趣意について、

米麥の生産者が食糧管理法第三條に基き、その生産した米麥を政府に賣渡す手續は、同法施行規則第二條第三條によれば、生産者はその割當てられた數量に相當する米麥を特定し、これを地方長官の指示に從い、その指定する農業倉庫業者その他の者に寄託し、又は自ら保管すると共に、地方長官の定めた賣渡期間迄に、その所屬する市町村農業會の出荷統制に從い市町村農業會、販賣組合又は農業倉庫業者に對し政府に賣渡すべき旨の委託をすればよいものであること所論の通りである。しかし原判決摘示事実をその證據説明の部と對照して讀めば、原判決は、被告人は政府に賣渡すべき米として割當てられた一八俵二斗六升五合のうち九俵分については、地方長官の指定した期限迄に所定機關に對し政府に賣渡すべき旨の委託をしなかったものと認定し、從って政府に賣渡さなかったと判示したものであることがうかがわれる。そして原判決擧示の證據によれば、原判決の判示事実は十分これを肯認することができるのである。論旨は被告人は割當られた數量の米については期限迄に賣渡委託を了ったと主張するもので、右は原審裁判所の専權に屬する事実の認定と異る事実を主張するに歸し採用できない。又假に被告人に對し、その割當られた數量に相當するいわゆる供出代金の支拂があったとしても、それはいわゆる空檢査、即ち生産者が將來割當數量の米麥賣渡の委託をすることを豫想し、現実には檢査しないのにも拘らず檢査したような手續を採ったためと認められる場合もあり得るから、右供出代金支拂の事実は原判決の右事実認定を覆すに足りない。又所論早藤品治郎及び岡島弥平が被告人の爲被告人に代って賣渡委託をしてくれたという四俵二斗は、原判決も之を被告人が賣渡委託した九俵二斗六升五合のうちに算入しているのである。次に、論旨は、被告人に對する第一審判決は懲役刑だけを言渡し、罰金刑の言渡はなく、檢事の控訴もないのに、第二審判決が懲役刑の外罰金刑をも併科したのは違法であるというのであるが、記録に徴すれば被告人に對する第一審判決は懲役十月に處する旨の言渡をしているのに對し、第二審判決は懲役刑においてこれより輕い懲役六月を量定し、且つその刑を四年間執行猶豫する旨言渡しているので、第二審判決が右懲役刑の外に罰金一萬圓を併科言渡したからといって、何等舊刑訴第四〇三條の規定に違反するものではない。

仍って論旨はすべて理由がないから、舊刑訴第四四六條に則り主文のとおり判決する。

此の裁判は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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